玄関の扉の開く音で目が覚める。
急に現実へと引き戻された頭が痛い。
電気はついていないが、月の明かりだけでも充分に周囲を伺えた。

自分の部屋だ。
サガを見送った後、そのまま眠ってしまったのか…。

そして、そのサガが帰ってきた。

でも俺にはそれを出迎える義理もなければ義務もない。
もう一度柔らかな夢の中へと戻ろうと思った瞬間、静かにドアが開かれた。


「…ただいま、私のカノン」


廊下の灯りがついていないせいで、月明かりに照らされたその姿はやけに現実離れして見えた。
そして、彼の後ろに広がる暗がりよりも尚、闇に近い黒い髪。
俺はため息を一つ吐き出した。

「また…、出てきたのか?」
「酷い言われようだな、私がわざわざカノンに会いにきたというのに」
「別に、そんなつもりじゃ…」
「目が赤い。泣いていたのか?」
俺が言い終わらない内に、いつの間にか目の前まで来ていたサガは俺の顔を覗き込んで言う。
何だか無性に情けなくなった俺はそっぽを向くとチラリと目だけでサガを見やる。
「……お前だって、真っ赤ではないか」
言うとサガは一瞬間きょとんとした顔をして、すぐにクックッと笑いだした。

「ふ…、はは。そうだな、同じだ」
そして俺をその腕に閉じ込める。


まるで俺の存在を確かめるように。
まるで自分の存在を確かめるように。




「おかえり、サガ…」













後書きと言う名の言い訳。
兄さんはお仕事に行くそうです。の続きだと思われる。
黒様は大好きです←

サガに見つかれば怒られるとわかっていながらも黒を拒めないカノンが、良い・・なぁ・・とか。