誕生日には、毎年二人でケーキを食べた。
二人切りで、お互いにお互いを祝い合った。
いつまでも変わらないと思っていた、儀式めいたそのささやかな誕生日会は、サガが黄金聖闘士になったことで崩れた。

誕生日を聖域の皆と過ごし、朝になって帰ったサガを迎えるのは泣き腫らした赤い目で無理に笑うカノンと、ゴミ箱に投げ入れられた二つのケーキ。
サガはそれらを見ないようにして、知らない振りをした。

そんなことを幾度か繰り返し、ある時からカノンは出迎えに来なくなった。
なんの気なしに覗いた台所には二本のフォーク。
ゴミ箱にはくしゃくしゃに丸められた銀色と綺麗に折り畳まれた銀色。
心臓が一つ、一際大きな音を立てた。
サガはそれでも何も言わず、気にしていない振りをした。


カノンが泣かずに済むのなら、それでも良いと思った。






Happy Birthday to You
Happy Birthday to You
Happy Birthday Dear……






「シードラゴン様の誕生日っていつなんですかぁ?」


ノックも無しに執務室へ飛び込んできたイオと、こちらも何の挨拶もなく唐突に問いを発するテティス。
「…聞いて、何か意味があるのか?」
不躾な来訪者に不機嫌を隠そうとしないカノンに補佐をしていたアイザックは小さく息をつくが、二人はやはり気にすることなくカノンの座る机へと小走りに近寄ると「お祝いするんですー!」と楽しげに話す。
「祝うほどのものでもないだろう。」
「えー?そんなことないって!」
「そうですよ、年に一回ですよー?」

「…くだらないな。」
カノンは溜め息と共にそう吐き捨てると再び紙面と睨み合いを始める。
ばっさりと切り捨てられたイオとテティスはお互い顔を見合わせ、しばらく書類へとペンを走らせる上司へと何かしら訴えていたが、やがてどちらともなく引き返していく。
そんなやり取りを黙って見ていたアイザックは、二人の姿が扉の向こうへ消えるのを見送ってから口を開いた。
「別に、誕生日くらい教えてやれば良かったじゃないか。」
「……。」
応えないカノンにアイザックは小さく溜め息をついて立ち上がると、先程から渡すタイミングを計りあぐねていたそれを取り上げる。
青いリボンのかけられた、手の平に収まる程の小さな白い箱。何も言わずに机に広がる書類の上にそれを置けば、さすがに怪訝な顔で見上げてくる。
「今日だろう?」
「―――!!」
アイザックはそんなに驚かなくても良いだろうと肩を竦める。

「カミュにお前の兄の誕生日を聞いたことがある、ただそれだけだ。」
「あぁ…。」と曖昧に頷いたカノンはしかしそれを突き返そうとはせず、ただ見つめていた。
そんなカノンを見て小さく笑んだアイザックは「じゃぁ、俺は少し休むからな。」と言って軽く伸びをして扉へと歩きだす。
「ぇ?ぁ、おい!」
「そうだ。何にすればわからなかったから適当に選んだが、気に入らなかったら捨ててくれ。」
呼び止めるカノンを全く意に介さずといった体でアイザックは扉の前で振り返ってそれだけ言うと、今度こそ出て行ってしまった。


「なんなのだ。全く…。」
一人残されたカノンは深々と溜め息をつくとイスの背もたれに身体を預け、目を閉じる。
「誕生日、か…。」
声に出して呟いてみれば、口元が綻ぶのを感じた。
柄にもなく、嬉しいと思った。
誰かが自分の誕生日を覚えていてくれたこと。
誰かが自分の誕生日を祝おうとしてくれたこと。
忘れていた、感情。


「……サガ…。」






「……はぁ…。」
両手に溢れんばかりの品々を抱えたサガはどうにか双児宮へと帰りつくと、なるべく丁寧にそれらを机へと下ろした。
可愛らしく包装されたもの、リボンがかけられただけのものや大きな花束、見掛けはそれぞれだがどれも聖域の皆がサガの誕生日を祝うために用意した物。
サガはしかし、再び溜め息をつくと贈り物はそこへ置いたままに冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出すと、キャップを外してそのまま煽った。
冷えたそれが喉を通るのが心地良い。
ふと開け放ったままの冷蔵庫を見ると、見慣れない箱が置いてあった。
「……。」
いつものようにそのままにしておこうと思ったが、何故か今日は誘われるように白く小さな、厚紙で組まれただけの箱を取り上げていた。
さして重さもないそれをプレゼントの積まれたテーブルの脇に置いて、ふらふらと椅子に座る。
しばらくぼんやりとそれを眺めていたサガは何の封もされていない蓋を持ち上げて、目に飛び込んできた文字に目を見張った。


『Happy Birthday to Me』


見間違うはずもない、自身と同じ筆跡でメモ紙にただそれだけ書いてあった。
やはり開けなければ良かったと唇を噛み、その紙を摘み上げ…、

「―――ッ!!」

弾かれたように立ち上がったサガは箱をテーブルから払い落とした。
ガタン、と音を立てて背後で椅子が倒れ、散らばるプレゼントに混じっていちごのショートケーキが2つ、床に無惨な姿を晒す。
頭の中で、自分ではない自分が黒い笑みを浮かべた。
「……だと言うのだ…。私に…、どうしろと言うのだ…!」
15で時を止めた、いつもどこか寂しげなあの笑顔が脳裏を過ぎる。


知らず、溢れた涙がテーブルに歪な円を描く。
サガはそのまま床へと座り込み、嗚咽を漏らした。


「……カノン…!」






「Happy Birthday to You」

すっかり日も落ち、濃紺の空に月が浮かぶ。
だが双児宮には一つとして明かりがついておらず、深い闇の降りたそこで倒れたままの椅子の横、床へ腰を下ろしテーブルの足に軽くもたれ掛かる闇よりもなお黒いイキモノが一つ。

「Happy Birthday to Me」

赤いリボンのかけられたテディベアを膝の上で弄びながら、楽しげとも寂しげとも思える掠れ気味の声で小さく歌う。

「Happy Birthday Dear…」

サガは足元に転がる赤い果実を摘み上げて躊躇いなく口に含み、指についた生クリームを舐め取るとクスクスと笑った。


「……誕生日おめでとう。サガ、カノン…。」













後書きと言う名の言い訳。
双子座お誕生日おめで・・・おめ・・?

………。
ということで一応双子誕なのですよ〜!ぱちぱちー!!
ぁー、ぅん。ほんとスンマセン。
遅刻な上に色々と頭がぐっちゃらけで繋がっておりませんね、はは!
一番最初のは要らなかったなぁ。
そしてアイザックがかっこ良過ぎた。
誰の誕生日なんだよ!!

カノンはサガが居なくても何とかなります。
意思も強いし海があったかい(気候的な意味ではない)ので。
サガはカノンが居ないとダメダメです。
黒様はやはりごーいんぐまいうぇい。
でもやっぱりカノンが居ないとダメな人。


→鬱を吹き飛ばしに行く