誰の為でもない君だけに捧げる歌。
亡き友を思いながら僕は歌い続けよう……。
君の分まで……精一杯歌おう。
僕達2人が作った曲を君に……。




鎮魂歌



それはとても寒い冬の日。病院に入院してる友人をいつものように見舞いに俺は行った。
「よぉ、見舞いに来てやったぜ」
病室のベッドで横たわっている友人にいつもと変わらず俺は明るく声を掛けた。
「お前なぁ〜、それが見舞いに来る態度かよ……」
呆れながらもどこか嬉しそうな表情で言う友人に俺も微笑んだ。
「そーいや、やっと、曲完成したぜ」
そう友人は言うと上体を起こし、ベッドサイドに置いてあるMDディスクを俺の前に差し出した。
「マジ?どんな曲か楽しみだなぁ」
俺はそう言いながらMDをセットし、聞いてみた。

“曲を作ろう”と言ったのは友人からだった。理由は高校最後に何か思い出に残る事がしたいと言った友人の言葉から始まった。
「−−−なぁ、どうだ?」
考えにふけりながら曲を聞き入ってた俺に友人が不意に聞いてきた。
「そうだな……」
俺はわざと考える素振りをした。友人の作った曲はとても良かった。
けれど、正直に言うのは何となく癪だったので俺はこう言った。
「お前にしては珍しく静かな曲だよな」
「……まぁな……でも、言い出来だろ?」
俺の言葉に友人は歯切れ悪そうに頷き、そして無邪気な笑みで再び聞いてきた。
「お前にしては良い出来だよ」
俺は意地の悪そうな笑みを浮かべながらそう言った。
その言葉に友人は苦笑した。
「お前、本当に素直じゃねーのな……」
「素直な俺なんて気色悪ぃだろ?」
椅子に凭れかかりながら俺は言った。
「確かに気色悪いよな」
俺の言葉に友人も相槌を打つと俺は微笑み、
「だから俺は今のままで良いんだよ」
そう言ってお互いの顔を見合わせた後、俺達は笑い合った。
一頻り笑い合った後、俺は椅子から立ち上がり、
「んじゃまぁ、家に帰って詞書いて来るわ……お前の曲に負けねぇくらい良い詞書いてきてやるよ」
軽くウィンクしながら俺はそう言うと、友人は笑いながらこう言った。
「あぁ、期待しないで待ってるわ」
「ひでぇな……まぁ、良いや。出来たら一番に見せてやるよ」
「はははっ……嘘だよ。ちゃんと楽しみに待ってるよ」
俺がそう言うと友人は笑いながらそう答えた。
その言葉に俺は微笑み、「おうっ!任せとけ」と言って病室を出た。

まさかこれが友人と最後に交わした言葉だなんて俺は気付きもしなかった。
俺がその事に気づいたのはそれから二日後の事だった。

詞が出来上がった為、見舞いついでに詩を見せに友人の病室に向かおうとした時だった。
「待って……」
突然呼び止められた俺は振り向くと、そこには看護婦さんがいた。
「……何ッスか?」
「そこの病室に行っても誰もいまんせよ」
看護婦さんはそう言って友人がいるハズの病室を指指した。
「でも、そこの病室に俺の友人がいるんッスけど、病室移動したんですか?」
俺は視線だけを病室に向けながら聞くと、看護婦さんは躊躇いがちにこう言った。
「そこの病室の男の子……昨日亡くなったの」
「え……」
看護婦さんの言葉に俺は呆然となった。
その後俺は病院の屋上へと足を向けていた。
屋上についた俺は無意識に涙を流しながら歌い出した。
『笑い合ってたあの頃、ボク等は違う道へと歩いて行く……
けれど迷わないで……挫けないで……希望の道を歩いて行こう
君は決して一人じゃない。君の側には大切な人がいる……』
空を見上げたまま俺は歌った。2人で作った曲……君の鎮魂歌へと変わった。

「……なぁ、お前はちゃんと天に還れたか?」
俺の問いに答える人は誰もいない。けれど、俺の問いに答えるかのように風が吹いた。
それは友人が作った曲のように静かで優しい風だった。