茨姫



遠い遠い昔のお話。
刻止まった静かな国に沢山の茨の棘に守られ、塔のてっぺんのその部屋にそれは美しい姫がいました。
何故、このお姫様が眠りについてしまったのか、これからお話しましょう。
話は100年前に遡ります。茨姫……いえ、王女には許婚がおりましたが、その求婚者は王女の容姿とこの国の権力に魅かれ、結婚を申し込んできました。
王は王女に求婚を求めてきた相手を一目見て気に入り、王女との求婚を認めました。
けれども、王女には他に好きな人がいたのです。
城の森奥深くの小屋に住んでいる使用人の青年と愛し合っていたのです。

「お父様は私の幸せの為に隣国の王子様と結婚させる気だけど、本当は自分の国の為と権力の為に私は愛してもいない方と結婚させるつもりなのよ」
「ご自分のお父上を悪く言ってはいけませんよ」
「……そうね。でも、私はあなた以外の方とは結婚などしたくありません」
「出来る事なら私もあなたを私以外の男と結婚させたくないです」
青年は悲しげに王女を抱き締めました。
2人はとても愛し合っていましたが、王様が青年との交際を認めてくれるハズもなかったので、いつもこっそりお城を抜け出しては青年と会っていました。

ある日、いつものようにお城を抜け出した王女は青年と会う為、森の中へと入って行く姿を婚約者相手の従者に見られてしまったのです。
その事を婚約者そして、王様、お妃様の耳に入ってしまったのです。
「どうしましょう、あなたとの交際をお父様に知られてしまったわ。きっと、お父様はあなたをここから、いえ……この国から追い出してしまうわ。でも、私はあなたのお側にずっといたい」
「姫様……」
王女と青年は困惑しました。そして、ある考えを王女は思いついたのです。
「そうだわ、駆け落ちしましょう」
「良いのですか?私と一緒にこの国から出るっていう事はがどんなに辛い事なのか……」
「判っています。どんなに辛くてもあなたがいてくれれば、乗り越えられます」
こうして王女と青年は駆け落ちしたのです。
ですが、その事はすぐにお城にいる王様に知られてしまい、王女と青年は兵に捕らわれてしまいました。
青年は王女の目の前で無残に殺されてしまいました。
王女は悲しみに暮れながら、お城へと戻されてしまいました。
王様は王女を塔のてっぺんに閉じ込めてしまいました。
王女は来る日も来る日も塔の中で泣いていました。そんな王女を悲しげに見つめている人物がいました。その人物とは……王女の良き理解者でもあり、良き友人でもある魔女でした。
「……泣かないで、あなたが泣いていると、私まで悲しくなるわ」
「でも、私は愛しい人を亡くしてしまったの。これが、悲しまずにいられないわ」
ポロポロと涙を流しながら王女様は言いました。魔女は悲痛そうな面持ちでただ王女様を見つめる事しか出来ませんでした。

ですがある日、いつものように悲しんでいる王女に魔女はこう言いました。
「……誰にも解けない呪いを掛けてあげましょうか?」
「え?」
「愛しい人がいないこの世にあなたがいたくないと思うのなら、私があなたに呪いを掛けて眠らせてあげるけど、どうする?」
「……眠らせて、私を永遠に眠らせて……」
涙を流しながら王女は魔女に願いました。
「判ったわ……眠らせてあげる」
そう言って魔女はこの城の刻を止め、そして王女を眠らせたのです。
王女が眠りにつくのと同時に塔には茨が巻きつき、そして……王女は茨に守られ、深い深い眠りにつきました。
魔女は眠りについた王女にこう言いました。
「……この呪いはね、心の底からあなたを愛してくれる人しか解けないの。そんな人が本当に見つかると良いわね」
そう言い終えると、魔女は微笑みながら塔から消え去りました。

そして、100年の月日が経ちました。茨姫未だ眠り続けています。