「あー!ジジ〜、どこ行ってたんだよ!」
「……お前こそ仕事サボって何やってんだァ?」
「ランタンだよ、ランターン!」
仕事――掃除を終えて城に戻ったキリヲが目にしたのは、床に座りこんで器用にも鉤爪で南瓜に顔を彫りこんでいく、同じく仕事があったはずのグンジの姿だった。





Happy Halloween?





グンジが仕事をしないことは珍しくない。
だがそれは大概寝てるかヤってるかだ。
まさかこんなことをしているとは思わなかった。
盛大にため息をついたキリヲは相棒であるミツコさん――鉄パイプを脇に置き、グンジと同じように適当に床に腰を下ろすと作業に没頭する横顔を窺う。
トレードマークとも言えるピンクのパーカーのフードは後ろへと下がっていたが、長く伸びた前髪で表情は見えない。
だが、時折聞こえるお世辞にも上手いとは言えない鼻歌から察するに随分と楽しんでいるようだった。
「………。お前、何やってんだよ?」
先ほどと同じ問いを口にする。
するとグンジはこちらへと顔を向ける。
相変わらず目元は隠れていてわからないが、その口調からは不機嫌さが感じられた。
「ぁあ?だ〜からランタンだって。ハロウィン知らねぇの?」
「それぐらい知ってるっつーの。俺が聞いてんのは何でそんなもん作ってんのかってことだよ」
「だってハロウィンはー、南瓜彫って『とりっくおあとりーと』つってお菓子食ってイタズラするんだろ〜?」

若干間違っている。

「だからって俺一人に仕事させてどういうつもりだァ?」
「ビトロパパは好きにしろって言ってたー」
「…ったく」
再び大きく息を吐き出したキリヲは立ち上がり鉄パイプを手にすると

―――ゴッ!!

「いッ……テェなぁ!何すんだよジジィー!!」
見事にそれが的中した箇所――頭を両手で押さえながら噛みつくかのような勢いで怒鳴るグンジを見下ろし、キリヲは三度溜め息をつく。
「それはしなくても良いってわけじゃねぇんだよ」
「ぅー…脳細胞がどれだけ減ると……ぁ、どこ行くんだよ!」
扉に向かって歩き出したキリヲは振り向かずに「狩りだよ」とだけ言い放つ。
「何だよー、こっち手伝えよなー」
「ヒヨが仕事したらな」
「……んだそれ」
不機嫌を露にしつつもグンジは手に持っていた物を置き、フードをかぶり直すと既に扉の向こうに消えた背中を追い掛けた。







――ハロウィン当日。
いつも以上に暴れ回るグンジの姿があった。

「とりーっくおあとりぃ〜と?」
手当たり次第にお決まりの台詞を投げかける。

「…ッ!!処刑人?!」
「ッ何で…」
「何でも何もハロウィンだからだろー?」
鉤爪を構える。


――誰でも良い。


ニヤリと口元を歪ませ、小さく「バァカ…」と呟く。
「!?ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


――何でも良い。


絶叫が崩れかけたビルの外壁にはね返り、灰色の空にこだまする。
「ぁ、ぅぁ……わぁぁぁぁぁ!!」
「逃げんなよ…なあッ!!」
「がはぁッ!!!」


――殺せたらそれで、イイ。


「……イタズラしちゃうぜぇ?」







キリヲがそれを見つけるのに、そんなに時間はかからなかった。
そこかしこで彼の凶行が囁かれ、ある一定の範囲だけ人通りが激減していた。
「……これまた派手に殺ったなァ…」
「ジジも遊びに来たのかぁ?」
赤く染まったパーカーを身にまとい、鉤爪を振って滴る血を払うと、グンジはヒャハッと笑った。
「…あんまりやるとビトロが煩いぜ」
鉄パイプを肩に担ぎ直し溜め息を吐くと、「てめぇと一緒にすんじゃねぇよなァ」とぼやく。
「とりあえずそのゴミ持って……」
背を向け、歩きだそうとしたそれと共に言葉が止まる。
グンジが首に手を回し、背中に張り付いて来たのだ。
鉤爪から漂う真新しい血臭が鼻をつく。
「……なんだァ?」
首だけを回して振り向くと、長く垂れ下がる金の隙間から覗く猫のような瞳と目が合った。
楽しそうに笑みを型どるそこから、予想していた通りの言葉が発せられる。
「とりっくおあとりーと、ジジ!」
「はぁ…、……ったく」
キリヲはズボンのポケットへと手を突っ込むと、滅多なことでは手にしないそれを引っ張りだし、可愛らしいピンク色の包み紙を取り払うと、肩口に顎を乗せていたグンジの半分ほど開いた口に赤く小さな球を放り込んだ。
反射的に飲み込みかけてしばし咳き込み、何とか口内に戻ってきたそれを舌の上で転がす。
「にゃー、アメちゃ〜ん♪」
軽くなった背中に、楽しげな声と共に再び重みが伸しかかってくる。
「はぁー…。重いっつーんだよ」
「にゃはは」
再び溜め息を吐いたキリヲは後ろに張り付く自身とさほど変わらない身長のそれをそのまま引きずって歩きだすが、不意に歩を止めると口端をニヤリと持ち上げ、ケタケタと笑っている相方を振り向くと、


「トリックオアトリート」


グンジは何を言われたのかと一瞬間きょとんとした表情を見せるが、すぐにいつもの笑みを浮かべ、少し上の位置にあるキリヲの顔へと近づく。




――ころん。



「………。甘いな…」
「ジジ!とりっくおあとりーと!!」
「はァ??」











おしまい?












後書きと言う名の言い訳。
とりぁぇず某友人に脅されつつ何とか書き上がりました(´・ω・)はふぅ。
グンジを愛するあまりキリヲへの愛が不足気味ですがそこはご愛嬌。
ビトロも出そうかと思いつつ結局出なかったという・・(チョーン。
長いコト書いたりしてなかったので最初の方と最後の辺りが書き方が違ってたり、キリヲが微妙に違う人だったりするのは気のせいです(滅
ちなみにキリヲが行ったり来たりしてるのは何だかんだでグンジを探してるんだとか何だとかゴニョゴニョ…