カーテンを開いて部屋いっぱいに朝日を取り込む。
思いっきり背伸びをして深呼吸。
今日は珍しく早起きなカノン。
とは言えそれは彼の基準であって、サガはとっくに職務の為に教皇の間へと出掛けてしまっている。
壁に貼られたカレンダーで日付を確認。
カノンは小さくうなずくと部屋着に着替え、キッチンへと向かう。







「っさ…サガ!受け取ってくれないか!?」
教皇宮を出ようとしたサガを待ち受けていたのは、リボンで可愛らしく飾られた小さな箱と大きな赤い薔薇の花束、そしてそれを抱えるアフロディーテ。
サガは一瞬間ポカンとした表情を浮かべるが、すぐに合点がいったようにうなずいた。
「…そうか、今日はバレンタインデーとかいう日であったか」

数日前に女神が何やら楽しそうに話していたのを思い出す。

となるとあの箱の中身は…。

サガは困ったように笑うと「すまないが…それを貰う訳にはいかない」と言う。
アフロディーテは「…そうか」とうつ向いてしまった。
どう対応すれば良いものかとサガが思案していると、うつ向いたままのアフロディーテはならばせめてこれだけでも、とチョコレートと一緒に抱えていた薔薇を差し出してきたので、サガは静かに微笑むとそれを受け取った。







カノンが手元のそれの出来栄えを眺めつつ、満足気にうなずいていると外から楽しそうな声と騒がしい足音。
「かーのーんー!居るぅー?」
疑問形ではあるが、こちらの返事は聞かずに上がり込んでくる。
「ぁ、居たー!」
片手に小さなビニール袋を下げたミロが、心底呆れたような表情のカミュを引き連れてキッチンを覗き込む。

「すまないカノン、勝手に…」
「いや、別に良いけどな。…それよりどうしたんだよ?」
「ぁ、うん。えっとねぇ……はい!」
袋をガサガサとあさって出てきたのは小さなチョコレート菓子。
ミロはそれを手の平に乗せてカノンに差し出した。
しかしカノンは頭にクエスチョンマークを浮かべているだけだったのでミロはその手を取って強引にチョコレートを握り込ませる。
「友チョコ!みんなに配ってるんだよ」
カノンはなるほどとうなずくと「ありがとう」と笑うが、お返しは俺とカミュのお休みで良いからね、と満面の笑みで言われて固まってしまった。

――それはつまりヤツに頼めと…?

「じゃぁカノン、宜しくね!」
大手を振って出て行くミロの後をカミュが慌ててついて行くが、すぐに戻って来て「失礼した」と頭を小さく下げるのでカノンは苦笑いのまま軽く手を振って見送った。

「ミロはともかくカミュもか…」
これは間違いなく自分が駆り出される、とカノンは頭を抱えて大きく息を吐き出した。







サガが自宮へと帰ると、カノンは夕食の並んだテーブルに無理矢理スペースを作って、雑誌を置いて適当に捲っていた。
「遅いぞサガ」
雑誌からは顔を上げず、言葉とは裏腹に特に気にしていない風に言うと、サガも小さく笑いながら謝罪の言葉を述べる。
「すまぬ、途中でミロとカミュに捕まってな。カノンによろしくと言っていたが、何かあったのか?」
「ぁー…、いや…まぁ…」
顔をひきつらせて笑うカノンをサガは不思議そうに見ていたが、思い出したように周囲をきょろきょろと見渡す。
「…?」
「あぁ、これを入れられそうなものはないかと思ってな」
バサッとアフロディーテから貰った薔薇を上向きに抱え直して見せる。
「げぇ…。何だよそれ…」
「ディテにもらったんだよ」
「あいつか……」
露骨に嫌そうな溜め息を吐くカノンの頭をサガが軽くこづく。
「つーか、何で…?」
「バレンタインだからだそうだよ」
適当な瓶に水を満たすと包装ごとそこへ生ける。
「……ふぅん」

カノンは乱雑に雑誌を閉じると「ならさぞかしご立派なチョコレートをもらったんだろうな」と口端を上げて笑う。
「…いや、断ってきたよ」
「は?何で…」
「だって、今日この日のチョコレートは相手の気持ちなのだろう?受け取る訳にはいくまい」
「!!……無駄に期待させるぐらいならってか。お優しいことで」
「そうでもないよ」
サガはにっこりと笑いながらカノンの顎を持って軽く上向かせるが、テーブルに伏せられていたはずの雑誌で顔を叩かれる。
「…カノン、これは酷いんじゃないかな?」
「飯が冷める」








食べ終わるとサガは持ち帰った仕事を片付ける為に早々に自室へと引っ込んでしまう。
カノンはチョコレートケーキを持ってサガの部屋の前に立ち、がしがしと髪を乱して溜め息。
軽くドアをノックして、返事は待たずそのまま開く。
「…サガぁ?」
サガは机に向いたままで返事も無いが、迷惑そうな空気ではないのでなるべく足音を立てずに中へ踏み込む。
椅子に座るサガの隣に立ってその手元を覗き込み、何やら小難しことが書いてある書類にカノンは眉間に皺を寄せた。
「何だこりゃ…」
「…何って……。カノン、どうかし、た……」
苦笑しながらもサガは紙面から顔を上げようとしないので、その目線の先、書類の上に皿を乗せる。
固まったサガにさっさと背を向け、足早に部屋を出ようとしたカノンだったが、呼び止められた上に腕を掴まれ、そのまま後ろから抱きすくめられてしまう。
「!!っさ…」
「ありがとう、カノン…」
「……」

しばらくそのまま大人しくしていたカノンだが、思いついたようにもぞもぞと身体を反転させてサガと向き合うと、その額に自身の額を合わせた。
「…兄さんはくれないのか?」

「―――!!」

「…?」
再び停止してしまった兄から身体を離そうとした瞬間、思い切り抱き締められる。
「んな、サガ!ちょ…!」
「チョコなどいくらでもやる…。私はお前が欲しい!!」
「サガ!おちつ…、ゃ…どこ触ってんだぁ!!」







デスマスクが部屋で一人寝ていると、顔を踏まれた。
「………おい」
「起きたかい?」
「誰だって起きるだろ!てか起こすなら普通に起こせ!」
アフロディーテは足を退かせるとそのままベッドの縁へ腰かける。
上半身を起こしたデスマスクは欠伸を噛み殺しつつ髪をかき乱す。
「つぅか、こんなとこまで何しに来たんだよ?」
その問いにすぐには答えず、アフロディーテは溜め息をついてリボンのかけられた箱を無造作にデスマスクに渡す。
「?」
「君にあげるよ。……その代わりふて寝に付き合ってくれ…」
言いながらデスマスクから布団を奪って自身に羽織り、その横に寝転がる。
「何だよ、サガに返されでもしたのか?」
「そうだけど?」
「…そこは嘘でも否定しとけよ」

デスマスクは溜め息をつくと枕元にその箱を置き、アフロディーテと同じく横になる。


「まぁ、いくらでも付き合ってやるよ」













後書きと言う名の言い訳。
頑張った、ボク頑張ったよ!!

魚は誕生日に書けるかわからないから優遇キャンペーン中。
蠍と水瓶はボクが個人的に好きだから←
双子は・・もう言わずもがなだよね!!
愚弟はきっと料理上手。
愚兄はきっと壊滅的。
ちなみにボクは愚兄派。